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最新の医学専門誌に報告された、 がん・栄養・環境リスクに関する疫学研究を紹介します。

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エビデンスの読み方9

少量飲酒は健康に良いか



以下の文章は、「How to 健康管理」2001年12月号(株式会社法研)に掲載された同名の連載コラムを、編集部の了解を得て転載したものです。


少量の飲酒は健康によいと、ひろく信じられています。「酒は百薬の長」とも言われます。  

ところが、「日本人男性のばあい、一日一合未満の少量飲酒によって、総死亡率は必ずしも低くならない」という筆者らのコホート研究の結果が、「米国医師会雑誌」2001年9月12日号に報告されました(論文の全文)。

この研究では、宮城県に住む40-64歳の男性21593名を対象に、1990年に質問票調査を行い、飲酒のようすをたずねました。

その後7年間の追跡調査を行ったところ、818名が死亡していました。このうち、がん死亡は380名(47%)、虚血性心疾患による死亡が64名(8%)でした。

その結果、一日平均1合未満(アルコールで22.8g未満)の「少量飲酒群」の死亡率は、これまで習慣的にお酒を飲んだことのない「非飲酒群」の1.1倍で、差がありませんでした。飲酒量がそれより増えると、死亡率も直線的に増加しました。  

この結果を理解するには、二つの問題を考える必要があります。第一は、「比較群の適切さ」という問題です。

「少量飲酒による死亡率の低下」を示したこれまでの研究の多くは、「少量飲酒群」と死亡率を比べる比較群のなかに、もともと飲まない「非飲酒群」と、途中でやめた「飲酒中止群」が、区別されずに含まれていました。

けれども、「飲酒中止群」は、病気などが原因でお酒をやめた高リスク群です。筆者らのデータでも、「飲酒中止群」の死亡率は、もともと飲まない「非飲酒群」の2倍でした。

つまり、これまでの研究の多くでは、「非飲酒群」と「飲酒中止群」というまったく性質の異なる集団を、誤って比較群にまとめてしまったせいで、「少量飲酒群」の死亡率が、見かけ上低い結果になった可能性があります。  

第二は、「少量飲酒の影響は病気によって違う」という問題です。少量飲酒により、虚血性心疾患のリスクが下がることは、よく知られています。反面、飲酒により、一部のがんのリスクが上がります。

あまり知られていませんが、世界保健機関と米国保健省がそれぞれ刊行している、発がん物質に関する二つの報告書では、アルコール飲料を、明らかな「発がん物質」に分類しています。

じっさい、今回の対象者でも、虚血性心疾患の死亡率は、「少量飲酒群」が「非飲酒群」より30%低い一方で、がんの死亡率は30%高くなりました。

けれども、死因全体に占める虚血性心疾患の割合は8%に過ぎないのに、がんの割合は47%と多かったため、少量飲酒による虚血性心疾患リスクの低下は、がんリスクの上昇で相殺されてしまいました。  

けっきょく、今回の研究では、途中でやめた「飲酒中止群」をきちんと区別し、もともと飲まない「非飲酒群」だけを、比較群にしました。その上で、全死因に占める虚血性心疾患の割合が、欧米より少ない日本人で調べたところ、少量飲酒による死亡率の低下は認められませんでした。

お酒を飲むのは、あくまで楽しみのため。健康のためとは考えない方が、賢明でしょう。